黄昏の千日紅
ベンチに座りながら、二人無言で咀嚼する。
目の前を、足早に通り過ぎるサラリーマンを意味もなく眺める。
きゃっきゃっ、と楽しそうに笑っている双子の女の子を、優しそうな眼差しで見つめる母親が手を繋いで歩いている。
生クリームとチョコレートソースの甘さが口の中にじんわりと広がり、バナナでそれを誤魔化した。
隣を見れば美味しそうにクレープを頬張った飛鳥が、ベンチの下に寄ってきた鳩にクレープの生地をちぎってあげていた。
「分かった」
急に言葉を発する飛鳥に、少しばかりたじろぐ。
「何が」
「あたしがめっちゃ朝早く学校行って、見張ってあげる」
「は」
「は、じゃなくて。この飛鳥様が見張ってあげるって言ってんの」
「いや、あんた早起き無理じゃん」
「無理だけど」
何だこの茶番は、と突っ込みを入れながら、遠回しにやんわりと断りをいれる。
飛鳥は中学の時” 伝説の遅刻魔 ”と呼ばれた程の、低血圧人間だ。
ルーズリーフの犯人は恐らく、朝練をしている生徒の誰か。
それを監視する為には、朝練をする生徒よりも前に学校に行く必要がある。
伝説の遅刻魔と呼ばれた飛鳥にそんなことが出来る筈がない。
「できるし」
「へ」
「あんた今できないとか思ってたでしょ」
図星を突かれ、私は黙り込んでしまう。
「いーの。凛の為なら何だってするんだから」