黄昏の千日紅
翌日、私が下駄箱で靴を履き替えていると、「凛!」と、飛鳥の大きいハスキーボイスが耳に入った。
「飛鳥、おはよー」
「おはようとか呑気なこと言ってる場合じゃないわよ!」
「なに、どうしたの?」
「どうしたのって。私が愛しの凛ちゃんの為に早起きして見張りしてやってたというのに」
ああ、そういえばそうであった。
「…分かったの?犯人」
「…それが」
二人の息を呑む音が、生徒達の賑やかな雑踏に掻き消される。
飛鳥はごそごそと自分の鞄の中を探り、一枚のルーズリーフを取り出した。
「…え?」
「ごめん、朝練の人達よりも早く来たはずなんだけど、もう既に机の中にあって」
「嘘でしょ…」
「放課後の可能性あるかもしれないから、あたし帰りも見張ってみるよ」
「じゃあ!私も見張る!」
私が思わず声を張り上げてそう言うと、周りの生徒達の視線を痛い程浴びる。
目の前の飛鳥は一瞬驚いた表情をしてから、今にも吹き出しそうな顔で「オッケー」と言った。