黄昏の千日紅
その日の放課後、私と飛鳥はお互いのクラスのホームルームが終わってから、屋上へと足を運んだ。
「何で屋上?」
飛鳥がこちらを見て訊いてくる。
「気付いたの。前に、屋上で暇潰してたら、自分の机がここの位置から見えること」
屋上から四階にある教室の、窓側の自分の席を見つめる。
「なるほどねぇ」
飛鳥がぽつりとそう零すと、私達はじっと教室を観察する。
しかし、部活動が終わった時間を過ぎ、下校時刻になっても一向に人影が現れる気配はなかった。
「んー、気付かれたかな。それか…」
飛鳥が顎に手を置いて、教室に視線を向けながら言う。
「それか?」
「…この世のものではないものか」
そう言って彼女は、両手の指先を下に向けて「うらやめしや〜」と言った。
私は彼女の額を軽く叩き、「ばかね」と言ってその場を立った。
「いったーい」と大袈裟に両手を額に当て、こちらを上目遣いで見る彼女を他所に、私はゆっくりと歩き出す。
「あー!凛待ってよー!冗談じゃーん」
分かっている。
冗談を言って、私を明るくしようとしてくれた飛鳥の気持ちは十分伝わっている。
しかし、本当にそうだったら?と考えたら怖くて堪らなくなったのだ。
ただ、それを誤魔化したかっただけだ。