黄昏の千日紅





その日の放課後、私と飛鳥はお互いのクラスのホームルームが終わってから、屋上へと足を運んだ。




「何で屋上?」




飛鳥がこちらを見て訊いてくる。




「気付いたの。前に、屋上で暇潰してたら、自分の机がここの位置から見えること」




屋上から四階にある教室の、窓側の自分の席を見つめる。




「なるほどねぇ」




飛鳥がぽつりとそう零すと、私達はじっと教室を観察する。






しかし、部活動が終わった時間を過ぎ、下校時刻になっても一向に人影が現れる気配はなかった。




「んー、気付かれたかな。それか…」




飛鳥が顎に手を置いて、教室に視線を向けながら言う。




「それか?」




「…この世のものではないものか」




そう言って彼女は、両手の指先を下に向けて「うらやめしや〜」と言った。





私は彼女の額を軽く叩き、「ばかね」と言ってその場を立った。





「いったーい」と大袈裟に両手を額に当て、こちらを上目遣いで見る彼女を他所に、私はゆっくりと歩き出す。




「あー!凛待ってよー!冗談じゃーん」




分かっている。
冗談を言って、私を明るくしようとしてくれた飛鳥の気持ちは十分伝わっている。




しかし、本当にそうだったら?と考えたら怖くて堪らなくなったのだ。


ただ、それを誤魔化したかっただけだ。







< 217 / 284 >

この作品をシェア

pagetop