黄昏の千日紅
「まさか明治の、…自分の前世を憶えてるなんて思いもしなかったよ」
飛鳥は全てを話し終え、目を潤ませながら自分を嘲笑うように顔を緩めた。
…….前世?明治?
私達が恋人であったということ?
私達は、異性であったということ?
私はすっかり頭が混乱してしまって、飛鳥の今話していることが全く耳に入ってこない。
「ど、ゆこと…」
「自分でも信じられなかった。ただ夢を見ているだけなんだって言い聞かせた。だけど、自分が産声を上げた時から今に至るまで、ずっと鮮明に当時の記憶が蘇ってくるの…まるで再生ボタンを押してビデオを流してるみたいな…」
「ごめん、変な話しして」と飛鳥は自分の顔を手で覆った。
いつものハスキーな声がより掠れ、涙声で乾いた笑みを零す。
私は彼女の話を聞いて、立ち尽くしたまま呆然とその姿を見つめていることしか出来なかった。
「…あり得ない。あり得ないよ、そんなの。信じられないよ…」
私が咄嗟に、口に出していた言葉はこれだった。
そんなこと、ある訳が無い。
前世の記憶?
そんなもの、ある筈ない。
しかし、目の前で泣いて自分を蔑みながら嘲笑を浮かべる彼女の姿を見ると、完全に否定してしまってはいけないような感覚になる。
それに、今迄中学からずっと一緒に過ごしてきた親友だ。
信じられないけれど、信じたい気持ちはある。
ぐるぐると脳内で考えを巡らせていると、不意に私の頭が強く金槌で打ち付けられたかのように激しい痛みを伴う。