黄昏の千日紅
「凛…?」
私は、少しの間を置いて、言葉を発した。
「ねえ。飛鳥がさっきピアノで弾いてた曲って…」
似ている、と思った。
最近になって良く夢に出てくる、ピアノを弾いている男性が奏でるメロディに。
「明治の時に、凛と弾いてた思い出の曲なの」
「…曲名は?」
「ベッリーニの予言の力」
その時、私の心臓が勢いよ良く跳ね上がり、激しい動悸がする。
そうだ。
あの夢の中で男性が弾いていた曲も。
” これは、ベッリーニの予言の力 ”
「でも、過去の時みたいに上手く弾けないの。天性の才能があるなんて言われてたのに。今は全く」
切なそうに笑う飛鳥を見て、疑っていた自分を責め、罪悪感さえ芽生える。
「う…そ…」
こんな偶然あるのであろうか。
私が夢で見ていたのは。
彼女は当時の前世のことを憶えているというのに、私は全く何も憶えていないだなんて。