黄昏の千日紅
会社から帰路につく。
歩く度にヒールが水に浸かる音、傘に雨の雫が当たって、弾かれるように水飛沫が起こる音が聞こえてくる。
歩道を歩いていると、隣を横切った車のタイヤの摩擦で、私の足元に少し水がかかった。
あーあ、ついてない。
おまけに靴の中湿ってきちゃってるし。
このヒール、まだそんなに経ってないのに、もう買い換えないとかな。
思わず溜息が出る。
雨は、嫌いだ。
そんなことを考えながら、私の住むマンションが視界に入ってくる。
住宅街に佇む、高くもなく安くもなくそれなりに立地に値するマンション。
会社から徒歩十五分。
交通機関も自転車も好きではない私は、職場に近い便利なここを選んだ。
マンションのエントランスに近づくと、ふと視界に駱駝色の段ボールが飛び込んでくる。
不審に思い、近づいて中を覗くと、小さな豆柴が一匹。
え?
えっと、これは。
現実で本当にこういうことってあるの?
これは誰か元の飼い主が捨ててしまったという解釈で良いのか。
まだ小さいから、子犬であろうか。
弱まってはきているものの、こんな雨風の中、元の飼い主は何を考えているのだ。
私は心の内で、誰かも知らないその人物に対して勝手に腹を立てる。