黄昏の千日紅
どんな天才的な能力を持っているのかは、正確に聞いたことはない。
正しい噂が出回ることがないから、東棟の生徒で知っている者は少ないのか、はたまた居ないのか。
男子生徒の方は、よく東棟と西棟の境に佇むベンチに座っているのを見掛けるのだが、天才的な雰囲気を持っている、というよりかは、どこか独特だ。
いつもクマのようなぬいぐるみを抱えて一人、もの思いに耽っていて、何となく暗い感じがする。
丁度、そんなことを思いながら廊下から中庭を見下ろすと、その男子生徒がベンチに座っていた。
何をするでもなくずっと遠くを見つめ、クマのぬいぐるみを抱き締めている。
何だか高校二年にしては幼い雰囲気が漂っているというか、いつも一人でいるからか、仲良い人は居ないんだろうな、と勝手に思ってしまう。
いや、僕にそんなこと言える資格はないのだけど。
彼の様子を流し目で見て、僕は自分の教室へと足を踏み入れた。