黄昏の千日紅





「…ねえ、ちょっと」




自分の口から出た言葉が耳に入り込んだ時、しまった、と思った。


話しかけてしまっていたことに、自分でも驚いた。
本当に無意識に。思わず、という感じで。


アイライナーで目を黒く囲んだ三人が、こちらに振り返る。



まるでパンダのようだ、なんて思ったことは口が裂けても言えない。




「なに?あんたD組の榊原だっけ?」
「なんか用?」




咄嗟に声が出てしまったけれど、一体僕は何て話す気だったのだろう。

女子と今迄、ろくに会話したことのない自分を悔やんだ。





「いや、その、今話してた人って…」




心臓がバクバク音を立てて煩い。



僕は一体何をしているのだろうか。



こんな、女子生徒の陰口などに首を突っ込むような真似をするなんて、一応優等生だと自負している自分でも驚きだ。




「…んあぁ、特級にいる雪宮の話だよ。あんた知ってる?雪宮って女。まじ愛想ないの最悪」

「せっかく話し掛けてやってんのにガン無視。おまけに表情ねえしさ、名前の通り冷たい女。雪女みてぇ」



「雪女!命名ー!」そう言って彼女達は三人で声を高く上げ笑い合う。




瞬間、僕の中で熱い何かが流れていく。
身体中の細胞がうごめいて、今にも反吐が出そうだ。



何だ、こいつら。
彼女のこと、何も知らないくせに。







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