黄昏の千日紅
私が、二十歳になって間もない頃。
いつものように、ハチと家のベランダで夜空を眺めていた。
田舎の夜空は、星が良く見える、澄んだ綺麗な空だ。
その日は昼から快晴で、夜はプラネタリウムを見ているかのような満天の星空が何処までも果てしなく、暗闇の中に広がっていた。
星の一つ一つが宝石のように輝きを放ち、今にも手が届くのではないかと手を伸ばしてみたり、流れ星が降るのではないかと心を躍らせて待ってみたり。
「私達がいるこの場所から見る星同士は、こんなにも近距離に見えるのに、宇宙では遠距離なんだよね」
なんて、私は小さくハチに呟いた。
ハチは、なにも答えなかったけれど。
少しの時間、彼とこうして側で寄り添っている時間が私の至福の時であった。
体が冷えてきた為、「部屋に戻ろう」と、いつものようにハチに告げる。
然しながら、その日、彼は珍しく私の声に一切反応を見せなかった。
顔を覗き込んでみると、ふわふわとした蜂蜜色の髪の毛が、小さな顔をそっと包み込んでいて、その奥に瞼が閉じているのが見えた。
ハチは眠っているようだった。
私は彼に「風邪引くから」と言って体を揺さぶったが、一向に起きる気配を示さなかった。