黄昏の千日紅
僕は、その日の放課後、西棟へと向かっていた。
帰宅部の僕は、帰りのホームルームが終わるのと同時に荷物をさっと纏め、教室を後にした。
西棟へと続く渡り廊下を歩いていると、ふと中庭が目に入る。
そこのベンチに一人で居る生徒。
篠田樹。
今日もクマのぬいぐるみを抱えながら、遠くの何処かを見つめ、座っている。
彼の周りには、話し掛けてはいけないような、踏み込んではいけないような独特な空気が漂っている。
気軽に話し掛けたくても、話し掛けられないような。
僕はそのまま顔を前に向け、西棟へと歩みを進めた。
渡り廊下は結構長く、冬に近付いている所為か、ひんやりとした風がすうっと頬を撫で、思わずマフラーに顔を埋めた。