黄昏の千日紅
二階へ続く階段は、小学生用の校舎の階段のように幅が狭い。
僕は、爪先で転ばぬよう慎重に登る。
二階へ上がると、目の前に物置の教室。そして、左を見ると廊下の奥先に” 美術室 ”と書かれた、掠れた文字が視界に入った。
その教室から、微かに物音がする。
誰か居るのだろうか。
もしかしたら、と淡い期待を抱いている僕は、何も知らない雪宮澪に、興味以上の感情を抱いているのかもしれない。
自分の感情が自分で分からないだなんて、可笑しな話だ。
しかし、産まれてこのかた、恋愛をしたことがない僕だからこそ、こんな感情は初めてのことで、どうしたら良いのか分からない。
もし、そこに彼女が居たら僕はどうすればいいのだろう。
どのように話し掛けたら良いのだろう。
そんなことを考えながらも、頭と体は自然と真逆に動く。
何かに操られているかのように美術室へと足は動くし、頭は焦燥感に駆られている。
こんな冷えた季節に、額から一筋の汗が垂れた。拳には汗を握っている。
心臓が、口から飛び出してしまいそうな程、緊張している。
美術室へと近づく度に身体が潡々熱を帯びていき、ただ暑い。
ドクンドクン、とこんなに全身で音を感じるのも初めての経験だ。