黄昏の千日紅





美術室の扉に手を掛けると、一度深呼吸をしてから右に向かってゆっくり動かした。



カラカラと、扉の開く音が静かな教室内に鳴り響き、僕の鼓膜を鮮明に刺激する。



眩い橙色の光が窓から差し込み、思わず目を細めてしまう。




同時に鼻腔を刺激する、独特な絵の具と古びた木材の入り混じった匂い。
生温かい教室の空気が、僕の体を一瞬にして包み込む。





そして、僕の真正面に背を向けて座り、窓際で絵を描く一人の生徒の姿。







彼女だ。







僕はその後ろ姿を目にして、薄く笑みを零す。







元々なのであろうか、腰まで伸びた色素の薄い髪色は、橙色の光に照らされ、明るい蜜柑色に光っている。




その細く、折れてしまいそうな華奢な体からは想像もつかない壮大な絵を描いているようで、少し離れた場所からでもその絵がはっきりと見えた。



肌寒い季節なのに、向日葵畑を描いているようだ。




暫く後ろ姿を眺めていると、彼女がぴたりと筆を止め、席を立ち、こちらに振り返った。



僕の存在に気付いたようで、彼女が無表情から怪訝な表情に変わる。





僕はドギマギしながら咄嗟に口を開き、

「初めまして、僕は榊原…」

と途中まで口にして、止めた。





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