黄昏の千日紅
彼女は僕の顔からすぐに目を逸らし、近くに置いてあった絵の具を手にして、そそくさと席に戻った。
やばい、嫌われたかな。
いや、その前に知り合いでもないか。
それに、僕の声、聞こえていないのかもしれない。
来る前よりも、心臓がドクドクバクバク音を立てている。
寧ろ何かの悲鳴のように聞こえる程、猛然たる音だ。
不意に、階段で聞いた女子生徒三人組の話し声が頭に蘇る。
軽蔑した、憎しみのあるような表情と毒々しい棘のある言葉。
この時僕は、正解なのかもしれないと思った。
東棟と西棟で分けられていることが。
しかし何故であろう。
僕は、雪宮澪を酷い目では見れない。
幾ら目の前の彼女に、冷たい目で見られても、軽蔑されても、階段にいた女子生徒達の言葉を全く信用出来ない。
それは、僕が彼女に対して特別な感情を抱いているからなのか。
それとも、彼女の目の前にあるその偉大な絵や彼女が描く踊り場に飾られた絵が、温かく悠々とした物に感じられるからであろうか。