黄昏の千日紅
彼女のパレットの横に、文字を書き足した紙を置く。
そして僕は、一心不乱に筆を動かす彼女の姿を目に焼き付け、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。
下駄箱で靴を履き替えて、外に出た僕は、紙に書いた言葉を頭の中で思い返す。
恋愛初心者の僕にしては、頑張ってみた方なのかもしれない。
いや、でも少し強引過ぎたかな。
” 突然驚かせてしまってすみません
僕は、2年D組の榊原 清司といいます
ずっと雪宮さんの絵が素敵だなって思って、ぜひ仲良くなりたいと思いました
明日もここに来ます ”
思い返すと、彼女はそんな文章を読んで、ただ変な奴だと思ったかもしれない。
僕が逆の立場で、もし自分が、誰にも近づいて欲しくないと思っていたなら、とても迷惑な話だ。
彼女がもしそう思っていたなら、僕は相当邪魔な奴。自分勝手で不当な奴。
自分自身で蒔いた種なのに、一々不安になる女々しい自分に苛立ちを感じる。
明日、行ってもいいだろうか。