黄昏の千日紅
「彼女にメモ渡して帰ったんだろう」
「あ、はい…」
ちらりと彼女の方に目線を変えてみると、彼女はこちらの様子を窺っていたようで、僕と目が合うとほんの少し肩を揺らして背を向けた。
「彼女、こんなことされるのは初めてだって戸惑っていたよ。まさか私が相談を受けるとは」
そして先生は大袈裟なくらい、高らかに笑う。
変な奴、と思われたのかな。
「やっぱり、こんなことして気持ち悪いですよね。急に…」
そう言って先生の方へ視線を戻すと、彼は顔の皺を更に深くしながら、更に笑った。
「いやいや、嬉しいんじゃないかな」
嬉しい?
本当にそうであろうか。
「明日も来ますって書いてあったのに結局来ないじゃないか、ってさっき気にしていたよ」
「えっ…」
「彼女、クラスもクラスだから友達が居なくてね。選択の美術でも浮いてしまっているし」
彼はゆっくりと歩み、側にある席に腰を掛ける。
僕はその姿を目で追いながら、頭の中で彼女のことをひたすら考える。