黄昏の千日紅
「君は知っているんだろう?彼女の症状のこと」
その時、僕の脈が加速していく。
知っている訳ではない、知りたいとは思っているが。
しかし、知ってしまっていいのかが分からない。
「いや、詳しいことは…何も。職員室で彼女が先生と筆談しているのを見かけただけで」
すると先生は、僕の顔を見て少し微笑み、彼女の方に顔を向ける。
僕もそれにつられて、彼女に視線を向けた。
彼女は休むことなく、筆を動かし続けている。
「…彼女は突発性難聴というものでな。先天性じゃなく、突然聞こえなくなってしまったそうだ」
そう言って彼は口角は上がってはいるものの、物悲しそうな表情を浮かべ、彼女を見つめた。
先生の瞳に、夕陽の秋色が反射して色素が橙色に光っている。