黄昏の千日紅
彼女が一体、今までどんな思いで生活してきたのか、健常者の僕になんて計り知れないことだ。
以前は聞こえていた音も、声も、聞こえなくなった無音の世界で、どれだけ苦しんだことだろう。
皆と同じように、当たり前の生活が送れなくなることに、どれ程傷付いたであろう、悲しんだであろう。
こんな僕に、何が出来る。
「君は優しいね」
「…え」
「悩んでいるのだろう?彼女のことについて。…無知だった他人について深く考えられる人はそうは居ないさ」
「………」
違う、優しくなんてない。
僕はただ。
ただ。
「君が仲良くなってくれたら、彼女は喜ぶと思うよ」
そう言って先生は、何かを悟ったかのように、ゆっくりと椅子から腰を上げ、美術室から出て行った。