黄昏の千日紅
僕はすかさず、先程自分の書いたメモの下に、ペンで字を書く。
” 雪宮さんって呼んでもいいですか? ”
それを見て、彼女が僕に向けて頷き、再びスケッチブックに字を書く。
” 私は榊原くんと呼んでもいいですか?”
僕の名前、覚えててくれたのか。
そんな小さなことでさえ、感動が芽生える。
それにしても、絵が上手い人は字まで綺麗なのか。途轍もなく達筆だ。
彼女との会話が、全然面倒臭くなんてならないのは、僕が彼女に好意を抱いているからか。
こんな細やかなやり取りで舞い上がってしまうのは、僕が恋愛初心者だからか。
暫く筆談で話をする。
同い年であるから、敬語は止めようと言うと、彼女は小さく頷いた。
少しずつ彼女が僕に心を開きつつあることが、どんなことよりも嬉しく感じる。
その日は帰路につき、家の近くにある小さな本屋に寄った。
ヘルスの本棚で、難聴についての本を探してみる。
一通り手に取ってみても、その場で読むには苦労しそうだ。
ぱらぱらと捲っていくと、” 手話 ”という単語が目に入る。
そうか、手話なら。
僕は突発性難聴についての本と、手話について詳しく載っている本を二冊購入した。
帰宅してからは夕飯もろくに食べず、僕はパソコンに向かい、それについて調べてみる。