黄昏の千日紅
それから、僕の生活は一八〇度変わったと思う。
帰宅すれば本を読んで勉強をし、手話の本はイラストや実演のDVDを見ながら必死になって練習をした。
彼女にその下手くそでなかなか上達しない手話を見せれば、可笑し気に笑われてしまったけれど。
それでも僕は、彼女の笑顔を見られることがどれ程嬉しいか。
幾ら馬鹿にされようと、笑われようと、彼女の笑顔が日に日に増えていっていることに優越感と幸福感を抱いていた。
最初は怪訝な目で見られ、警戒されていた僕に対し、確実に彼女が心を開き始めてくれていることに、自然と目頭と喉の奥が熱を帯びる。
彼女が真剣に絵を描いている時は、できるだけ邪魔をしないよう、斜め後ろの席からその絵を眺めた。
というよりも、絵よりも彼女の姿を眺めている比率の方が高いことは、彼女には内緒である。
彼女の描く絵は、どの絵も優美で、温かく、僕の心は清らかに洗われていくようであった。