黄昏の千日紅
彼女が今まさに描いているその二人の人物は、きっと彼女と僕の姿。
そしてその二人が、笑い合いながら会話している様子を描いているのだと思う。
それはまさに、僕の希望と夢が詰まったものだ。
その絵のように、君と普通に会話が出来たなら、どんなに幸福を感じられることか。
” やっぱり何でもない ”
” えー!何よぉ ”
何でもいいんだ、他愛もない話で盛り上がってさ、笑い合えたらそれでいいんだ。
それで、いいんだ。
「好きだ、」
彼女は、絵を描くことを決して止めることはない。
パレットに新しく絵の具を出そうとしている時、視界に入った僕に振り返り、笑顔でこちらに小さく手を振った。
僕が、彼女に少し手を挙げると、嬉しそうに顔を綻ばせ、再び絵に向き直り再開する。
「好きだよ、…澪」
僕は、彼女の耳に決して届くことのない言葉を口にして、いつまでもその後姿を眺めていた。