黄昏の千日紅





ハチの居なくなった部屋に残ったものは、一緒に撮った思い出の写真。




ハチのイニシャルが入った首輪。


散歩用のリード。


冬用の寒さを凌ぐ為の服。


ハチの、小屋。






ハチの、匂い。





彼の匂いを嗅いだ時、突然、私の体に猛烈に熱い何かが、荒波のように押し寄せてくる。





目から次々と溢れ出てくる水滴。
胸と喉の奥が急激に熱を帯び、水中に潜っているかのように、呼吸がし辛い。
鼻の奥に水が入り込んだかのように、つん、として痛い。




無意識に出てくる嗚咽が、何度も何度も自分の涙を誘う。






「はち、…ハチっ……うぅ…っ」








__ハチは、私の過ごす一日を、一週間分も多く生きていた。



それがどの位の長さかなんて、人間の私には分からない。計り知れない。


しかしきっと、ハチと過ごした日々を、私が短く感じてしまっていても、彼にとっては長い生涯だ。




ハチは、私と過ごして楽しかっただろうか。




彼が私に沢山愛をくれていたように、私も沢山の愛を与えることが出来ていただろうか。





ハチは私の所に来て、幸せだったであろうか。







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