黄昏の千日紅
「番号くださあい」
「そのようなものは当店では扱っておりませんので申し訳ありません」
私は息継ぎも忘れ、彼の顔も見ずに答える。
物体Xは、いつも同じような台詞を言っては私を困らせ、それを心の中で楽み、ほくそ笑んでいるのであろう。
そして毎度、ブラックコーヒーだけを注文し、風の如く去って行く。
毎週来るならば、もう少し貢献してほしいものだ。
シフトを変更したくとも、月曜の深夜に入れる人がいないという点が、とてもネックだ。
物体Xは、この安っぽいチェーン店には全く相応しくない、高貴なスーツをさらっと着こなし、漆黒の髪をワックスで丁寧に後方へと流して固めている。
そして軽そうな口振りと、顔と、佇まい。
何故、こんなファストフード店に勤務する私のような人間に毎回構ってくるのか、全く理解出来ない。