黄昏の千日紅
自分でもどれくらい走ったのか分からなくなる程、無心で何時間も走った。
崖でもいい、海でもいい、兎に角死ねる場所へ行きたくて。
このまま体がボロボロになって、足が動かなくなって、崩れ落ちて死んでしまえれば最高なのに、なんて、周りから精神的に可笑しいと思われるようなことさえ、当時の俺は安易に考えていた。
この世界から消えてしまえれば、どんなに楽だろうと思った。
ただ、自分の家から、現実から目を逸らしたかった。
現実逃避したかった。
無心で走り続け、疲労さえも感じない程に体が麻痺していた俺が、気付いた時には、喧騒たる眩い光の灯った道で倒れていた。
意識が朦朧とする中で、誰かが俺に声を掛けた気がしたが、何の気力もない俺は、そのまま気を失ったか、はたまた眠ってしまったのか、それすら今となれば憶えていない。
目を覚ました時には、黒い家具で埋め尽くされた部屋のベッドに横たわっていた。
その時、俺を介抱してくれた人物こそが、” shine ”のオーナーだった。