黄昏の千日紅
見知らぬ他人との奇妙な生活が始まり、三日が過ぎた頃、オーナーは俺に初めて口を開いた。
「おめえんとこの借金は返しといた」
「……へ」
「だからおめえは、俺んとこで働いて返せ」
絶句した。
何も言葉が出なかった。
あれ程の多額の借金を、見ず知らずの男が代わりに返してくれるなんて想像も出来ないことであったからだ。
「……嘘だ」
オーナーは煙草の煙をふうっと一息吐くと、こちらを見据え「ついて来い」とだけ言った。
俺はそのまま後ろに付いて行くと、連れて来れられた場所が、ネオン街に佇むホストクラブだった。
「何年かかってもいい。おめぇ、ここでNo.1になれ」
オーナーは俺に、それだけを告げた。
何も、この先のことを考えていなかった俺は、もう選択肢はこれしかないと心の中で固く決意した。