黄昏の千日紅
夜の街で働くことに慣れ、いつの間にかNo.2に昇りつめていた俺は、多額の借金を肩代わりしてくれたオーナーに、金を返却する日を迎えることが出来た。
本当に、そこまでの道のりは意外にも、長いようで短かったと思う。
その日は珍しく豪雨で、酷く足元の悪い天気だった。
深夜を回り、いつものように煌びやかな服を身に纏った女達の相手をした後、オーナーの家に向かおうと外に出た。
路地裏に入り、俺は煙草をふかしながら歩いて行く。
すると背後から突然聞こえてきた、少しあの頃より渋くなったような掠れた声。
「よお、兄ちゃん」
瞬時に振り向くと、その瞬間勢い良く頬を殴られる。
「…っ…てえ」
その反動で俺の差していたビニール傘が、遠くの方へ飛んで行ったのが見えた。
拳で口元を拭うと、鮮血が微かに付く。
「あの頃の餓鬼が随分と成長したなあ?こんな高そうなスーツ、着ちゃってよお」
にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、強引に俺のスーツを掴んでくる。
目の前の二人組は、当時の俺の家に毎日のように来ていた、黒尽くめの男達であった。