黄昏の千日紅
荒い呼吸を整えながら、自分の痛む身体をぎゅっと握る。
「…っくそ…」
脳裏に浮かぶのは、先程の、薄気味悪い笑みを浮かべながら、暴力を振るってくる男達の顔。
理不尽な彼等に、不条理なこの世に、俺はもう絶望しかなかった。
空を見上げると、雨が俺の顔に容赦なく降り注ぐ。
崩れ落ちて座っている俺を、通りを歩く人間達が哀れな目や、強張った表情を浮かべ、颯爽と足早に去って行く。
まるで、自分には関係の無い人間であると主張したいかのように、見て見ぬ振りをする。
俺の顔は物凄く酷いことになっており、もう最早、原型を留めてはいないのであろう。
鏡を見た訳でもないが、顔が途轍もなくパンパンに腫れているのが分かる。
口の中が切れていて、酷い血の味がする。
「…はっ」
俺は中坊の頃を思い出し、一人嘲笑を浮かべた。
あの頃も、毎日のように口の中で血の味がしていたな。
雨脚は次第に強くなり、俺の顔の傷の血を全て洗い流して欲しい、と思っていた時だった。