黄昏の千日紅
スイセン
少女は、とても暗く冷たい闇の中に居た。
いつからそこに居たのかは分からない、憶えてもいない。
ただ、気付いた時にはそこの暗闇に居たのだ。
少女は、自分の名前も年齢も、何一つ分からない。
しかし、周りから「おまえ」だとか「おい」だとか、そんな風に呼ばれるものだから、自然とそれが自分の名前なのであろうと解釈していた。
この暗闇の中には、大それたものは何もなく、あるとすれば適当に床に散りばめられた何冊かの本と紙、鉛筆。
少女の頭は何も憶えていなくとも、体は憶えていたのか、それらの本を読むことや鉛筆で字を書くことは出来た。
長い時間本を読み、字を書き、自分の体など到底通ることの不可能な一つの小窓から見える青空を、ただぼうっと眺めるだけの生活。