黄昏の千日紅
少女は、食事を運んでくる男に、駄目元で「風船が欲しい」と言った。
殴られることも、罵られることも覚悟の上で言った。
男は少しばかり驚いたような、怪訝な顔を見せたが、ただ少女が暇潰しに遊ぶ玩具だと思ったのであろうか。
次の食事の時間にそれが用意された。
引き換えということなのであろう。
食事はなかった。
しかし、少女はいつものように男に「ありがとう」と言った。
次の日の朝、少女は何を思った訳でもなく、本の中の風船の写真を手で適当に切り取り、お世辞にも綺麗とは言えない字でそこに文字を書いた。
そして、自分の無造作に伸びた長過ぎる髪の毛を何本も毟り取って、それを無理矢理、風船にくくり付けた。
少女は、何も分からなくても、既に精神が崩壊していたのかもしれない。
何本も自分の手で、髪の毛を頭皮から毟り取っても、何の痛みも感じなかった。
ただ、少女は、” 風船 ”になりたかった。
自由を求めていた。