雨の怪物


 ちなみに、あえて御幣のある言い方をするなら、彼は魔法使いである。


 とはいえ、呪文一つで炎を出したり、ドラゴンを召喚したり・・・と、そんな、トンでも人間と言うわけではない。


 彼は正式にイギリスの魔道師ギルドに所属し、古来のまじないや、占い、お守りつくりなどの知識を会得している・・・と言うだけの話である。


 極端な話を言うならばコックリさんも、一種の召喚魔法であり、『いたいのいたいの飛んでけ~』という・・・あの言葉も、一種の回復呪文なのだ。


 つまり、彼の使う魔法とは、そのような類のものでしかない。


 一度、ファイヤーボール出して!・・・とせがんだところ、『人間がどうやったら、何もないところから炎が出せるんだよ?』・・・と至極真っ当な答えが返ってきた。


 分かっているけどね・・・。


「だから、違うんだって・・・分かってないな、悠人君は・・・。」


 亜美さんが力説するが、残念なことに悠人の言葉は非常に的を射ていている。


 実際、似たような話を自分が昔聞いたときも、同じ言葉を返した記憶がある。


「つまり亜美は、こう言いたいのだろう?ここ最近の行方不明者たちも、その『雨の間の世界に飲み込まれた』・・・と。」


 亜美の言葉を補填するように、夢が言葉をつむぐ。


 長い長い梅雨が始まり、もうすぐ一月。


 本日は運よく晴れているが、三人の行方不明者が出たのは、偶然にもすべて雨の日。


 ・・・そんな噂が出てきてもおかしくないか・・・。


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