君の瞳に映りたくて。
生き霊、か………
なんでそんなめんどくさいものに出会ってしまったんだろう。
「………なんだって?」
「生き霊はね、身体の中にいる魂とは別人だから、魂が身体に戻ると生き霊の時の記憶はなくなるんだって。
というか、生き霊飛ばしてるなんて、飛ばした本人が意識あったとしてもわからないことが多いんだって。
………生き霊だった時の記憶が戻ることはほとんどないんだって。」
香坂の表情は全く変わらない。
なにを考えてるのかはわからない。
………というか、香坂は生き霊の和泉を知らないから、なんとも思っていないのかも。
香坂は元々仲良かったんだもん。むしろ、目覚めてよかったと思ってるはずだから。
「…こんなことならあの日和泉なんか知らんぷりして、出会わなければよかったな。
ほんと、ずるいよね。言うだけ言って忘れるなんてさ。」
………笑え。
泣きそうになってんな、私。
泣いたってなんにもならないだろ、私。
「でも俺は感謝してるけどな。
春翔がなんの問題もなく意識取り戻して、すぐに退院できたんだから。
宮下がいなかったらさ、もっと時間かかってたと思う。時間がかかればかかるほど、春翔の身体はもっと何かあったと思うから。」
「………そんなことないよ。
和泉が記憶を取り戻したとき、私はなにもしてなかったから。
私がいなくても結果は変わらなかった。」
「宮下がいなかったらきっと記憶を取り戻そうなんて思わなかったんじゃねーの。
宮下がいなかったら俺に話しかけることすら出来なかったろ。俺がいなかったらあいつがどこで、なんでそうなったかもわからなかったんじゃねーの?
だから、春翔には宮下がいてよかったんだよ。
後悔なんてしてんなよ。」
「…そっか。そうだね。
なんかありがと。」
頭に乗った香坂の手が暖かくて、ほんの少しだけ、本当に少しだけ涙が出たけど流れはしない。
泣いたってなにも変わらない。
私はいつだって笑うって決めてきたんだ。
「………うん、もう平気。ありがと。」
私が上を向いて香坂の顔見て笑えば、香坂も私の顔を見て笑った。