君の瞳に映りたくて。
杉山said
***
「………舞桜があんな風に思ってたなんてね…」
「そうだな…」
「少し、よろしいですか?
本当は私なんかが口出しするのはよろしくないのですが、私もお嬢様をずっと見てきましたので。」
「………なんだ?」
「お嬢様がアメリカから戻られたとき、それはそれはとても嬉しそうな顔をしていました。
その時は奥さまも日本にいらしたので、旦那様だけが離れていて、お嬢様はそれをすごく心配していらっしゃいました。
奥さまがアメリカに戻られたときはすごく寂しそうな顔をされましたが、それでも笑顔で、旦那様には奥さまが必要なんだと仰いました。
仲睦まじいお二人のことが、お嬢様は本当に大好きでいらっしゃいます。
それだけはわかってあげてください。
…それと、お嬢様の夢をご存じですか?」
「…いや、舞桜は陸上のことばかりだから…」
「お嬢様の夢は、またこの家に家族4人で住むことです。
もう叶わぬ夢ではありますが、その代わりにこの家にはたくさんの家族写真が飾られています。」
「………舞桜が…」
「そして、お嬢様の好きな人ですが、お嬢様が襲われたとき、救ったのはその彼でした。
彼はその場に助けにいっただけではなく、その後のフォローまでしていらっしゃいました。
………お嬢様は本当に怖い思いをされました。その好きな人のことさえ、拒否するようにもなったのです。
そんなお嬢様をあそこまで立ち直させたのも、彼でした。
お嬢様が立ち直るまで、毎日お迎えにこられ、今日も恐らく彼に送っていただいたんだと思います。
お二人はお付き合いをしているわけでもないのに、彼は友人のためにそこまでできる方です。
………そして、こちらの学校のご友人を大事にされるのは、アメリカで受けた人種差別によるいじめが原因かと思われます。」
「いじめ?舞桜が?」
「はい。………それと、将生様も。」
「将生も!?」
「お嬢様にとって、こちらでできたお友だちは、初めてのお友だちとなります。
そして、恐らく初恋も彼です。
どうかその人たちをお嬢様から引き離す考えだけは、お控えになった方がよろしいかと思います。」
「じゃあ杉山さんは、舞桜はここに残った方がいいと思うんですか?」
「………いえ。
お嬢様は将生様のことをかなり引きずっておられます。
今のお嬢様はどんなに辛いことがあっても泣けない、弱い人間です。
私は、アメリカに戻ることが乗り越えるチャンスだと考えています。」
「でも舞桜は…」
「これは、ひとつの案として、聞いていただけますか?」