君の瞳に映りたくて。

今だけ。



***


香坂と美乃里が消えたあと、私と和泉はある程度の距離をとって、その場で戻ってくるのを待っていた。

縮まらない、この距離感で。


………だけど、香坂も美乃里も、私と和泉に気を使ってくれてるのがすごくよくわかるから、私はまた和泉に近づいた。


「和泉…」


「………なに」


「本当に、忘れることにするから。
和泉のこと。
…香坂に甘えたりなんかしない。
ちゃんと香坂だけを見つめていくことにする。
香坂を好きになる。

だから、私が和泉に好きだって言ったこと、忘れなくてもいいよ。
もうそれ、過去の話だから。」


私が和泉の顔を見ながらそう言っても、和泉は1回もこちらを見ようとはしない。

それほど、きっと私のことが嫌なんだと思うから。


「………それと、これ。
いらないなら捨てていいから。」


私は和泉の手を取って、無理矢理猫のぬいぐるみを和泉に握らせた。


「………それから…今だけ、やめてくれない?それ。
香坂も美乃里も、気を使うから。
前と一緒じゃなくていいから、今だけ避けないでほしい。
修学旅行が終わったら、もう話しかけなくていいから。
私ももう話しかけないから。

だから、今だけ…」


お願い、和泉…
もう、香坂にこれ以上心配かけたくないよ。


「………わかった。」


和泉は下を向いたまま、頷きながらそう答えた。


「ありがと。」


私が口角を上げてそういうと、和泉はやっと顔をあげた。
そして少し微笑みながら

「今だけ、か。」

と呟いてこちらを見た。


「ごめんね、嫌かもしれないけど…」


「………せっかくの修学旅行だしな。」


私たちが目を合わせて笑い合い、そんなことを言ってると、香坂と美乃里が戻ってきた。


「なに、仲直りしたの?」


「ふふ、修学旅行は楽しまなきゃもったいないから。」



< 352 / 500 >

この作品をシェア

pagetop