君の瞳に映りたくて。
今だけ。
***
香坂と美乃里が消えたあと、私と和泉はある程度の距離をとって、その場で戻ってくるのを待っていた。
縮まらない、この距離感で。
………だけど、香坂も美乃里も、私と和泉に気を使ってくれてるのがすごくよくわかるから、私はまた和泉に近づいた。
「和泉…」
「………なに」
「本当に、忘れることにするから。
和泉のこと。
…香坂に甘えたりなんかしない。
ちゃんと香坂だけを見つめていくことにする。
香坂を好きになる。
だから、私が和泉に好きだって言ったこと、忘れなくてもいいよ。
もうそれ、過去の話だから。」
私が和泉の顔を見ながらそう言っても、和泉は1回もこちらを見ようとはしない。
それほど、きっと私のことが嫌なんだと思うから。
「………それと、これ。
いらないなら捨てていいから。」
私は和泉の手を取って、無理矢理猫のぬいぐるみを和泉に握らせた。
「………それから…今だけ、やめてくれない?それ。
香坂も美乃里も、気を使うから。
前と一緒じゃなくていいから、今だけ避けないでほしい。
修学旅行が終わったら、もう話しかけなくていいから。
私ももう話しかけないから。
だから、今だけ…」
お願い、和泉…
もう、香坂にこれ以上心配かけたくないよ。
「………わかった。」
和泉は下を向いたまま、頷きながらそう答えた。
「ありがと。」
私が口角を上げてそういうと、和泉はやっと顔をあげた。
そして少し微笑みながら
「今だけ、か。」
と呟いてこちらを見た。
「ごめんね、嫌かもしれないけど…」
「………せっかくの修学旅行だしな。」
私たちが目を合わせて笑い合い、そんなことを言ってると、香坂と美乃里が戻ってきた。
「なに、仲直りしたの?」
「ふふ、修学旅行は楽しまなきゃもったいないから。」