君の瞳に映りたくて。
「俺さ、舞桜が引っ越したあとに、妹が生まれたんだ。」
「え、そうなの?」
「だけど5歳のときに肺炎で死んだ。」
その和泉の言葉に、私の表情も動きも固まった。
「麻里っていうんだ。
麻里は俺とサッカーするのが好きで、それで俺、小学4年くらいからサッカー始めたんだ。」
「………そうだったんだ。」
「舞桜は?なんで短距離に移った?」
「私はくだらない理由だよ。
アメリカの学校でさ、長距離専門はたくさんいたの。
外国人と比べると私なんか遅くってさ。
顧問に、短距離に移れって言われて、それで。
だけど短距離には私のことを嫌ってる人がいて、私よりも速かったの。
すごい人種差別してる人で…そんな人に負けて、そんな人が世界で活躍するのなんか見たくなくて、それで短距離頑張ったの。
中学卒業するときには私の方が速かったけどね。
コーチもさ、すごい人種差別する人で、私にはあまり教えてくれなくて…
でもそんなのおかしいでしょ?
スポーツは絶対平等でなきゃいけないって思った。
だけど、世界の貧しい国の人は指導者に教わることもないままタイムをあげた人もいる。
なんかそう考えたら自分の悩みなんかくだらなく思えてきて、私も必死に走ってきた。
そしたら私はいつの間にか速くなってた。
100メートルが好きになってたの。
だから、かな。」
「……じゃあ俺らは得意なことより、好きなことを選んで、成長してきたってことだな。」
「うん。
もしね、中学の時のあの子が世界大会に出るときが来たなら、私も一緒に出て、絶対勝ちたい。
あの人が気にしてきたことがどれだけくだらないことか、絶対に証明してやる。
日本人をバカにしないでって、見せつけてやるの。
それが今の私の夢。
昔と変わったよね。」
「負けず嫌いなところは全然変わってねーけどな?」
「和泉に言われたくないよ。」
私にはでっかすぎる夢だけど、和泉に負けてられないから。