青い夏
プロローグ
気づけば、滝のように汗をかいていた。


その事実に気づいて、「暑い」という感情が後から追いついてくる。


僕は手に持っていたパレットと筆を置き、窓を開けるために立ち上がった。


それと同時に、何時間も座っていたせいで固まっていた身体中の節という節が悲鳴をあげる。


「ふんーっ」


ひとつ、大きく伸びをした。音こそ鳴らないものの、不健康なほどに体が矯正されるのが分かる。気持ちがいい。


ふーっ、っと勢いよく息を吐き出して伸びを終え、今度こそ窓の方へ近寄って行った。


鍵を開けて、少し建てつけの悪くなった窓を強引にこじ開ける。


すると、想像していたものより遥かに多く湿気を含んだ風が頬を掠めた。


大嫌いなこの感覚。しかし、その嫌悪感と同時に溢れ出す記憶。



……そうか、もうそんな時期になるのか。


年々縮まっていく一年の長さに、年を感じずにはいられない。



今年で僕はいくつになる?……28か。じゃあ、あれからちょうど10年になるのか。


10年経っても鮮明に思い出せる、あの色素の薄い柔らかい髪と青い景色。



あの頃の僕の世界はキャンパスの上にしかなかった。


どんな物だって人だって、キャンパスに収められないものは無かった。





でも、君だけはどうしても収められなかった。


君も君の周りもいつだって確かに青いのに、儚くて消えそうで。


絵の具の何色を混ぜたら、君の色ができるのか分からなくて。




あの頃は気づかなかったけれど、今なら何故だかわかる。


君はきっとこの世で一番美しい青色を持っていた。


僕をはじめ、俗世に生きる人間には到底作り出すことが許されないような美しい青色を。
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