青い夏
第1章
君との出会いは、きっとあの時だった。


出会い、という表現は正しくない。正確には、認識だ。



今日みたいに夏の空気を感じた日だった。

僕は放課後、いつものように一番乗りで美術室のドアを開けた。


……はずだった。


うちの高校の美術部は、とても緩く部員のほとんどが幽霊部員だった。

こうして僕のように、毎日美術室に足を運ぶ人間はいない。

当然のことながら、ホームルーム終了後3分で美術室のドアを開ける人間も、僕以外にはいない。



しかし、その日は先客がいたのだ。


まず目に飛び込んでくる、色素の薄い長い髪の毛。

その髪の長さと制服から、女子生徒であることは分かる。


しかし、後ろ姿で顔は見えない。


その女子生徒は、本来は僕が座るはずの椅子に浅く腰掛けて、俺の絵を見ていた。


僕は彼女に向かって、歩みを進める。


こちらに顔を向けるような様子はない。


……気づいて、いない、のだろうか。


別段静かに歩いている訳でもない。普通なら振り向くだろう。



そしてとうとう、女子生徒の真横まで来てしまった。

彼女の横顔を見るが、見覚えのない顔だ。



女子生徒は両目を大きく見開いて、真剣な顔で僕の絵を見ている。

その澄んだ空気を壊すことを申し訳なく思いながらも、このままではどうしようもないので、僕は仕方なく声をかけた。



「……あの、」


いきなり声を出したので、とても掠れた声が出た。

喉のつっかかりを、咳払いで取り除く。



女子生徒は、かなり驚いた様子でピクッと肩を震わせた。

人は本当に驚いた時、思わず大きな声が出てしまう人と、全く声が出ない人の2つに分かれると思う。彼女は後者のようだ。



ゆっくりと彼女はこちらに顔を向けた。

そして、僕の姿を認めると、ふっと表情を緩めた。





青い、そう思った。
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