この夏の贈りもの
だけどあたしは、黒板消しを翔から奪い取った。


といっても、これも全部翔が見せている幻想だった。


霊は人間のものに触れる事はできないのだから。


「なにするんだよ」


翔が驚いたように目を見開いてあたしを見た。


「欲張りでいいと思うよ」


「は?」


「生きているなんて、それだけで奇跡なんだから。奇跡を実感したいなら、欲張るくらいしなきゃダメなんじゃないかな?」


そう言いながら、あたしは黒板の文字を読んでいく。


幸いなことに、無茶苦茶な内容のものは見当たらなかった。


これなら時間がかかっても全部叶えてあげることができそうだ。


「チホ、お前……」


「いいじゃん、やろうよ。仕方がないからチョコレートはあたしがおごってあげる」


「さすがチホだな」


そう言ったのは唯人だった。


「どうせならみんなで叶えに行こう。そっちの方がもっと楽しくてきっと生きているってことを感じる事が出来るから」


「もちろん、そのつもりだったよ」


裕がそう言い、立ち上がった。


「まずはチョコレートだな」


唯人がそう言い、あたしは大きく頷いたのだった。
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