この夏の贈りもの
☆☆☆

それからあたしたちは自転車に乗って坂道を下っていた。


風が前髪を真っ二つに分けて、オデコが全開になっているのがわかる。


ブレーキをかけずに一気に下りきると、ハンドルを右に切った。


細くて人通りの少ない道をグングン飛ばしていく。


「気持ちいいー!」


翔が声を上げる。


「だね!」


あたしはそう返事をしてペダルをこいだ。


道路は大通りに合流していて、そこまで来るとさすがにスピードを落とした。


大通りを塞ぐように並んで自転車をこいでいても自動車にはぶつからない。


翔はわざと蛇行運転をしてみせた。


「ちょっと翔。中には霊感がある人だっているんだからね」


そう注意するけれど、翔は聞いていなかった。


ま、いっか。


今日で成仏をするんだから好きな事を好きなようにさせてあげよう。


そう思っていると前方にコンビニが見えて来た。


最初の心残り、チョコレートは目の前だ。


あたしは自転車を駐輪所に止めて店内へと足を踏み入れた。


もちろん、翔も一緒に。


だけど店員さんにはあたしの姿しか見えていない。
< 103 / 218 >

この作品をシェア

pagetop