この夏の贈りもの
森の中はとても涼しく、濡れた服のままじゃ少し肌寒さを感じるくらいだった。


「大丈夫か?」


そんなあたしに気が付いたのか、唯人が横に並んでそう声をかけて来た。


「大丈夫だよ。服は随分かわいてるし、このくらいじゃ風邪はひかないから」


そう言いながら、お風呂場で冷たい水を浴びていた頃の事を思い出していた。


風邪をひけば学校を休む事ができると考えたあたしは、お風呂でぬくもった体にわざと冷水を被っていたのだ。


だけど、それで風邪をひいたことは1度もなかった。


思い出し笑いをした時、唯人が不思議そうな顔であたしを見て来た。


無理矢理風邪をひこうとして失敗していた時の事を話すと、みんなおかしそうに笑っていた。


「チホの気持ちはよくわかるよ。毎日毎日同じ事の繰り返しじゃ、嫌になってくる。少しだけ何か違う事があれば、その日常の素晴らしさに気が付けるのにな」


唯人がそう言った。


日常の素晴らしさ……。


「あたしは、ずっと休んでいたいけどなぁ」


からかわれ、イジメられる日常なんていらない。


その中に素晴らしさなんて、どうやって見つけ出せばいいのかわからない。
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