この夏の贈りもの
裕が悪霊化するなんて、考えてもいなかった。


なにがいけなかったんだろう?


成仏する順番?


大切な友人たちがどんどんいなくなるのを見せるべきじゃなかった?


それとも、もっと他に理由があるんだろうか?


どっちにしても、裕本人に聞いてみないとわからないことだ。


だけど、裕が答えてくれるような状態かどうかもわからない。


もう頭の中はパンク寸前だ。


あたしは宿直室のキャリーケースの中から、布にくるんでいたお祓いグッズを取り出した。


念のためと思って持ってきた道具が本当に必要になるなんて、考えてもいなかった。


布の中野水晶玉はずっしりと重たくて、両手で慎重に運んでいく。


手首には先祖代々伝わっている琥珀の数珠をつけた。


逃げ出したい気持ちをグッと押し込めて階段をかけあがる。


さっきと同じ場所でこけそうになるが、どうにか踏ん張ってまた走った。


教室へ入ると、唯人が振り向いた。


「マヤ!」


間違えた名前であたしを呼ぶ。


一瞬胸にズキリと鋭い痛みが駆け抜けた。
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