この夏の贈りもの
だけど気にしている暇なんてない。


ほんの数分の間に裕の体全体が黒いモヤで覆われはじめていた。


「裕!」


あたしは裕の前に座り、水晶玉を取り出した。


「裕、聞こえる?」


悪霊になると人の声も聞こえなくなる。


裕の意思は消え、ただその場で不幸を呼ぶだけの存在になってしまうのだ。


一歩間違えれば、裕はこの世から成仏できなくなってしまう。


裕がゆっくりと顔を上げた。


その顔は青さを通り越して黒ずんで生きている。


その様子にハッと息を飲んだ。


本物の悪霊を見たことがあるのは1度だけだった。


それはおじいちゃんの仕事について行った時の事。


依頼を受けた時にはまだ普通の霊だったのだが、数日間でその例は悪霊化していたのだ。
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