この夏の贈りもの
原因は生前暮らしていた自分の家が取り壊された事だった。


死者は自分の思淹れのある場所に固執し、愛着を持ち続けている。


それが突然消えてなくなったため、自分をコントロールすることができなくなったのだ。


「チホ……」


裕があたしの名前を呼び、ひとまずホッとする。


裕はまだ自分の意思を持っているようだ。


これからまだ元に戻せる可能性がある。


だけど、裕にしてみれば今が一番つらい時間だろう。


自分が悪霊化していくのが、自分で理解できている状態なのだから。


「裕大丈夫? どうしてこんな、急に……」


そう言いながら裕の額に琥珀の数珠を押し当てた。


琥珀は厄払いの意味がある。


裕が顔をしかめて琥珀の数珠から逃げようとする。


この数珠に反応するということは、やはり悪霊化が進んでいるという証拠だった。


「裕教えて? あなたの心残りはなに?」


「開かずの扉……」


裕が苦しむような声を絞り出した。


「え?」


聞き取れなくて聞き返す。


「開かずの扉」


今度はハッキリとそう聞こえて来た。


「開かずの扉って……」


あたしは一瞬この学校の鍵がかかった教室を思い出していた。


でも、あの教室の事を言っているのは限らない。
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