この夏の贈りもの
岡本裕、1人にはしない
鍵を握りしめ、あたしたちは教室の前まで戻ってきていた。


相変わらず冷たい空気を肌で感じる。


太陽はまだ高く、真ん中までも到達していない。


これなら、いける。


あたしは一呼吸おいて南京錠に鍵を差し込んだ。


なんの抵抗もなく鍵は開く。


「チホ」


後ろから和が声をかけて来た。


心配しているのだとわかる。


あたしは振り返らずに頷いて見せて、南京錠を外した。


床に置くとカチャリと冷たい音が聞こえて来た。


ドアノブに手をかけて、ゆっくりと開いていく。


扉が左右に開けば開くほど、冷たい空気が流れ出して来るのを感じて身震いをした。


この向こうに何がいるのか、心臓はドクドクと鋼のように打ち始めている。


それでも、逃げる事はできなかった。


悪霊を鎮めることができるのは、あたししかできないんだから。


ゴクリと唾を飲み込んで一歩前へ踏み出すと、そこは教室ではなく通路になっていた。


狭い通路には下駄箱があり、ここで靴を履きかえるようになっているようだ。


「ねぇ、この教室ってなんだったの?」


「聞いた話だと、音楽室だ」


唯人がそう返事をした。


あぁ、それなら納得だ。
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