この夏の贈りもの
経をすべて読み終えると、黒いモヤは消えていた。


「本当に、来てくれたんだ」


ホナミさんが彼女自身の声でそう言った。


「あぁ。1人にはしないって、約束しただろ」


裕はそう返事をして、ホナミさんを立ち上がらせた。


黒いモヤは、もうどこにも見当たらない。


代わりに2人の足元が金色に輝き始めた。


ついにその時が来たようだ。


戦争で焼け焦げ、ススまみれになっていたホナミさんの顔がゆっくりと綺麗になっていく。


きめ細やかな肌に、健康的なピンク色の唇。


大きな目に、2つに束ねたおさげがみ。


あぁ……綺麗だなぁ。


それは女のあたしでも惚れ惚れするような見た目だった。


裕がホナミさんを見て頬を赤らめている。


「ありがとう、チホ」


裕がホナミさんの手をしっかりと握りしめたまま、あたしにそう言った。


あたしは喉に言葉が引っかかって返事ができなかった。


代わりに、満面の笑顔を浮かべる。


「ありがとう」


ホナミさんが照れくさそうに微笑む。


そして、2人は金色の光となって空へと上がって行ったのだった……。
< 177 / 218 >

この作品をシェア

pagetop