この夏の贈りもの
切なさ
裕がいなくなった校内は、静けさを感じさせた。


「よく頑張ったな」


お父さんがそう言い、大きな手であたしの頭をガシガシと撫でた。


「お父さん、どうしてここに?」


「あぁ。こっちの仕事がひと段落ついたから、見に来てみたんだ。まさか悪霊がいるなんて思ってなかったが、うまくやってるみたいじゃないか」


そう言われて、あたしは軽く肩をすくめた。


うまくやっているのかどうか、あたし自身はよくわからなかった。


みんなが成仏することに前向きで、自分がなにをしたいのかをちゃんと教えてくれているから、スムーズに運んで行ってるだけだ。


それは、あたしの力とは言えない。


「お、もうこんな時間か。それじゃ、次の仕事があるから帰るからな」


お父さんは腕時計を確認して慌てたようにそう言った。


「え、もう帰るの?」


あたしは驚いてそう聞き返した。


「あぁ。ちょっと寄ってみただけだからな」


そう言い、そそくさと荷物を持って外へ向かうお父さん。


あたしの事が心配で仕事の合間に抜け出して来たのかもしれない。


「そうだチホ」


早足でグラウンドの中央まで歩いていてお父さんが、思い出したように振り向いた。


「なに?」


「お父さんも、お母さんも、それからじいちゃんもばぁちゃんも、お前を1人にはしないからな」


少し照れくさそうにそう言うお父さん。
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