この夏の贈りもの
☆☆☆

教室に戻ると唯人がぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。


「なにしてるの?」


そう聞きながら近づくと、窓ガラスがひび割れていることに気が付いて、一歩手前で立ちどまった。


「外の景色を見てるんだ」


「外にはなにが見えるの?」


「グラウンドと桜の木」


「唯人は、桜の木の下で告白したことがある?」


そう聞くと、唯人はゆっくりとあたしへ視線を移動させた。


唯人の黒目に戸惑った表情のあたしが写っている。


「しようと思ってた」


「……そうなんだ」


それはまるであたしへ向けて言われているような言葉で、一瞬心臓が大きく跳ねた。


唯人があたしに告白なんてありえないのに、なに考えてんだろ。


そう思い、あたしはグラウンドを見つめた。


大空も有馬も翔も裕も。


みんなこのグラウンドを使って来たんだろう。


みんなが相撲をとっている様子を思い出すと、思わず笑顔が浮かんできた。


この校舎にも、きっと沢山の思い出があるに違いない。


そういうのは少しだけ羨ましく感じられた。


あたしにとって校舎もグラウンドも、同じような灰色の記憶しかなかったから。
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