この夏の贈りもの
オレンジ色に染まっている唯人の髪はとても綺麗だった。


あたしが近づいていくとその足音に気が付振り向いた。


そして、優しくほほ笑む。


あたしはその笑顔は『ちほ』へ向けられているものではないことを、すでに理解していた。


胸の奥が締め付けられるように苦しい。


それでもあたしは唯人へ笑顔を向けた。


「よく眠っていたな、マヤ」


「……うん」


あたしは唯人の隣に立ってそう返事をした。


「そろそろ神社の鐘が鳴る時間だ」


唯人は夕日を見つめてそう言った。


神社の鐘の音なんて、ここへ来てから一度も聞いたことはなかった。


けれど……。


唯人がそう言った瞬間、あたしの耳に金の音が聞こえ始めて来た。


それは有馬の時に校舎のチャイムが鳴った時のように、心の中で直接鳴り響いているような音だった。


「また、神社に行こうか」


唯人がそう言い、あたしに手を差し伸べて来る。


あたしはおずおずとその手を握り返した。


暖かさも、温もりも感じない唯人の手。


だけど確かに、あたしは……いや、マヤは唯人の手を握り返した。
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