この夏の贈りもの
小さな神社は草が生え放題で、今はもう誰も手入れをしていない事が一目瞭然だった。


しかし唯人が境内に足を踏み入れた瞬間、草木は消えた。


ここがまだ使われていた時まで舞い戻ったのだ。


境内には砂利が敷き詰められていて、右手には大きな金がぶら下がっている。


左手には手洗い場があり、その向こうにはお守り売り場があった。


その光景を見た瞬間あたしの手に唯人の手のぬくもりが伝わって来た。


見ると、唯人は学生服ではなくカーキ色の国民服だ。


兵隊が着ている服とよく似ている。


「唯人、今日は夏祭りはないよ?」


自分の意思とは関係なくそんな言葉を発していた。


「わかってる。だけど来年はまたきっとあるはずだ」


唯人はジッとあたしを見つめてそう言った。


「日本が戦争で勝ったらね」


あたしは日本が戦争で負ける事を知っていた。


きっと、国民全員が知っていることだった。


小学校の頃習った社会の授業を思い出す。


「勝つよ、絶対」


唯人はそう言い、あたしの手を握り直す。
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