この夏の贈りもの
だけど、ついに唯人が返ってくることはなかった。


やがてマヤは親が決めた人と結婚し、家庭を持つ。


「チホ、聞こえてるか?」


唯人のそんな声にあたしはハッとして顔をあげた。


今はマヤの目を借りて唯人を見ているような状態だった。


「俺の心残りは、マヤと夏祭りに行けなかったことだ」


マヤとの約束。


それを果たしてしまえば唯人は消えてしまうんだよね?


あたしの家に突然現れて、除霊してくれなんて無茶な事を頼んできたイケメンな幽霊。


幽霊から依頼されるなんて初めてで、最初は本当にとまどったっけ。


だけど、あの時からあたしの中にマヤがいた。


唯人はあたしの中のマヤに気が付き、あたしの家までやってきたのだ。


やっとめぐり合うことができた2人は、あたしの意思なんて関係なくここまでやって来た。


マヤが心の中にいることで、あたしはどんどん唯人に惹かれて行ってしまっていたんだ。


だけどそれも終わり。


唯人が成仏すれば、あたしの中のマヤもきっと消えてくれるだろう。


少し寂しい気がしたけれど、それが霊媒師の仕事なのだから仕方がない。
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