この夏の贈りもの
あたしは何も答えない。


和の息があたしの右耳にかかる。


だけど、嫌な感じはしなかった。


「俺はチホのことが好きだ。今でもずっと。イジメてしまったことは本当に後悔してる。許してもらえるとも思っていない。俺は……本当に最低な事をした」


「……わかってんじゃん」


あたしはボソッと呟くようにそう言った。


「有馬はちゃんと自分の夢を叶えたよな。俺の夢は……まだわからないけど、でもたぶん、チホと一緒の未来を歩くことなんだと思う」


「たぶんって、ダメじゃん」


あたしはいちいち和の言葉に突っ込みを入れた。


そうしていないと、嬉しくて涙が止まらなくなってしまいそうだったから。


「それから翔。あいつは自分が悪霊になるかもしれないのに、約束を果たした。俺は、チホに約束する。もう二度と、絶対にチホを傷つけたりしない」


あぁ、ダメだ。


我慢していた涙がついに溢れ出して、あたしの頬を濡らして行った。


「それから唯人。唯人も約束を守った。大切な、マヤさんとの約束だ」


「ひいおばぁちゃんも、そうだよね。一旦成仏したのに、また戻って来るなんてさ」


思い出して少しだけおかしくなった。
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