この夏の贈りもの
「あぁ。できれば、俺はチホとそんな関係にないたい。ずっと離れていても、互いに約束を忘れないような関係に」


「それはどうかなぁ」


あたしはわざとらしくそう言って見せた。


「あたし、忘れっぽいから」


本当は嘘だった。


これから先和と交わす約束はきっと忘れる事がないだろう。


和があたしの髪をそっと撫でた。


「髪、短い方が可愛いのに」


ボソッと呟く。


「なに、それ」


「中学の時はショートだったのに」


「だって、みんながあたしの胸をからかうから」


そう言うと、和はあたしから身を離した。


その表情はひどくつらそうだ。


「……ごめん」


「別に、終わった事だし」


そう言い、そっぽを向く。


これも嘘だった。


終った事だなんて思えていない。


だって今もあたしは下を向いて猫背になって、教室の隅で本を読んでいるんだから。
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